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切れ痔

切れ痔とは

切れ痔とは、肛門の皮膚にキズが生じて、排便時に肛門の痛み・出血を起こす病気のことです。
医学的な正式名称は、「裂肛(れっこう)」といいます。
便秘による硬い便が原因となり、肛門が裂けてしまうケースが多いです。
一方で、「性感染症」や「肛門がん」が原因で、切れ痔のような症状となることがあるため、注意が必要です。

切れ痔は20歳〜50歳代に多く、女性に多いことが特徴です。
慢性的に切れが続くと、肛門が狭くなって便が出づらくなり、手術が必要となるケースがあります。
肛門からの出血や痛みがある場合は、一度、大腸・肛門の診療を行っている消化器内科へ受診しましょう。

切れ痔に関して、症状のチェックリストや、薬・治し方などの細かい情報まで、消化器病専門医・内視鏡専門医・胃腸科専門医である院長が、分かりやすく・詳細に解説していきます。

痔の種類

痔には、いぼ痔、②切れ痔、③痔ろうといった種類があります。

切れ痔の約80%は、後ろ側(背中側)にできるという特徴があります。
また、切れ痔の形は、楕円、ひし形・円形とさまざまな形態があります。

そのほか、「痔ろう」という直腸と皮膚にトンネルを作る痔があります。

切れ痔の原因

 

切れ痔の原因として、以下のものがあります。

  • 慢性便秘
  • 物理的な刺激(肛門を引っ掻いてしまう など)
  • クローン病
  • 慢性下痢

切れ痔の原因として最も多いのが、慢性便秘です。
また、肛門の周りがかゆくなり、引っ掻いてしまうことで、切れ痔になることもあります。
治りかけで痒い場合にも、擦らないように注意しましょう。
頻回の下痢によって、切れ痔が生じる場合もあります。
炎症性腸疾患であるクローン病の合併症として、切れ痔や痔ろうが生じます。

切れ痔の症状

切れ痔でできるキズのことを裂創(れっそう)といい、肛門のまわりの皮膚が裂けることで生じます。
キズがひどくなると、びらん・潰瘍に発展していきます。

切れ痔の症状として、以下のものがあります。

  • 排便時・排便後のピリピリ・ジンジンした痛み
  • 少量の出血
  • 肛門周囲のかゆみ
  • 肛門が狭くなる(肛門狭窄)
  • 肛門の潰瘍
  • 肛門ポリープ
  • 肛門皮垂(見張りイボ)

切れ痔は、排便中・排便後に認める肛門痛が特徴です。
排便後に、痛みが数時間続くこともあります。
出血は少量の真っ赤な鮮血であることが多く、トイレットペーパーに少量付着する程度です。
血の塊が見られる場合、出血量が多いため、なるべく早めに医療機関へ受診しましょう。

切れ痔のキズの表面から出る液で、かゆみを生じます。
切れ痔が慢性化することで、排便に関係なく常に痛みが続くようになります。
また、肛門の周囲に潰瘍や肛門ポリープ・肛門皮垂(見張りイボ)といった病変ができるようになります。
肛門ポリープは肛門の内側に、肛門皮垂は肛門の外側にできます。

切れ痔の症状チェックリスト

こちらの切れ痔を疑うチェックポイントに該当する項目がないか、ご確認ください。

このような症状・エピソードを認める場合、なるべく早めに消化器内科を受診しましょう。

切れ痔の検査・診断

切れ痔を診断する検査としては、以下のものがあります。

  • 視診
  • 肛門鏡
  • 大腸内視鏡検査(大腸カメラ)

切れ痔を診断するには、直接病変を見る(視診)ことが重要です。
視診を行うことでびらん・潰瘍、肛門皮垂がないか、肛門がせまくなっていないかを判断できます。
肛門鏡・大腸カメラでは、肛門から直腸までを直接観察することで、切れ痔の状態を診断できます。

また、大腸カメラでは、肛門の内側が裂けている場合にも、よく観察することができます。
それ以外にも、大腸カメラで、肛門ポリープの有無や、直腸潰瘍、大腸ポリープ、肛門がん、直腸がんなどの痔以外の出血源を診断することが可能です。

切れ痔と区別が必要な病気

切れ痔のような症状をきたす病気として、以下のものがあります。

  • 結核
  • 梅毒
  • 白血病
  • HIV感染(エイズ)
  • 肛門がん
  • 悪性黒色腫

切れ痔が

  • 不整形で、むくんでいる
  • 何度も繰り返す
  • 治りが悪い切れ痔

である場合、上記の病気の可能性を考えます。

状況にあわせて、血液検査で結核や性感染症をチェックしたり、組織を採取(生検)します。
当院では、梅毒やHIV含め、各種性病の検査・治療を行っております。お気軽にご相談ください。

切れ痔の治療・治し方

切れ痔の治療は

  1. 生活習慣の改善
  2. 薬物療法
  3. 外科的手術

があります。
まずは、生活習慣の改善と薬物療法を行います。
切れ痔は便秘の改善が重要になります。
切れ痔が治る期間は個人差があり、病変が小さい場合には、7〜10日程度で治ります。
一方で、慢性化した場合、年単位で切れ痔が持続します。

肛門を清潔に保つ

切れ痔をよくするためにはまず、肛門を清潔に保つ必要があります。
切れ痔がある場合、痛みがあったり、肛門皮垂が邪魔をすることで、排便後にしっかりと洗浄できないケースがあります。
一方で、切れ痔であることを気にしすぎてしまい、排便後に執拗にトイレットペーパーで拭きすぎてしまったり、シャワーの際に洗いすぎてしまうことで、かえって痔を傷つけてしまっている場合があります。

排便後は、トイレットペーパーで強く拭くことは避けて、弱めのウォシュレットでしっかりと洗浄するようにしましょう。

薬物治療

切れ痔の薬物療法には、

  1. 外用薬(軟膏、座薬)
  2. 下剤
  3. 漢方薬

があります。

外用薬(軟膏・座薬)

軟膏を患部に直接塗ることで、効果が十分に発揮されます。
痛みが強い場合には、表面麻酔薬入りのものを選択し、痛み止め(消炎鎮痛剤)の座薬を投与します。
腫れがひどい場合には、ステロイド入りのものを選択します。
切れ痔の浸出液による皮膚炎がある場合、抗ヒスタミン薬入りの軟膏やステロイド入りの軟膏を患部に塗布します。

下剤

漢方薬

慢性的な便秘の方や、排便時にいきんでしまう方には、便をやわらかくして、便通をコントロールするために、下剤や漢方薬を使用します。

下剤はいずれも即効性がありますが、刺激性下剤や浣腸は、耐性や依存(くせになる)が問題となります。
そのため、使用する場合は短期間の投与か頓服で内服します。
継続的に服用する場合、非刺激性の下剤を内服していくことを推奨します。

新しく開発された下剤である

  • 上皮機能変容薬
  • 胆汁酸トランスポーター阻害薬

などは、非刺激性の下剤で、効果があり耐性や依存がなく、副作用が少ないことが特徴です。

主な下剤の一覧を以下にお示しします。

下剤の一覧

便秘で使用する漢方薬の一覧を以下にお示しします。

漢方薬の一覧

漢方薬 改善させる症状
大黄甘草湯 便秘
桃核承気湯 イライラを伴う便秘
防風通聖散 イライラを伴う便秘
桂枝加芍薬大黄湯 お腹の張り、便秘
大建中湯 お腹の張り、便秘
麻子仁丸 高齢者の便秘
順腸湯 高齢者の便秘
大紫胡湯 上腹部痛を伴う便秘

これらの漢方薬を症状に合わせて組み合わせていきます。

外科的手術

肛門狭窄(肛門が狭くなること)や、便が出づらくなってしまった場合に、外科的手術を行います。
具体的には、肛門の括約筋を切開する方法、切れ痔を切除する方法などがあります。

切れ痔の対処法

切れ痔を自然治癒させる・悪化させない、もしくは再発させないために日常生活でできる対策は、便秘や下痢にならないようにしていくことです。
日常生活でのストレスや生活の乱れ、運動不足が便秘を引き起こすため、

  • ストレスの軽減
  • 食物繊維を多く食べる
  • 十分な睡眠時間を確保する
  • 適度な運動をする

など、規則正しい生活を行うことが大切です。

「排便の仕方をどうすればいいの?」とよく聞かれますが、排便の仕方として、便をする際に「強くいきまないようにする」ことが大切です。

慢性的な下痢でも切れ痔を引き起こします。
そのため、便秘や下痢にならないように、排便をコントロールしていくことが重要になります。

食生活の改善

日々の食生活を改善させることも重要になります。
飲酒(アルコール)は、お尻への血流も良くするため、痛みや出血が悪化させる可能性があります。
お酒の飲み過ぎには注意しましょう。
便秘の際には、肉類の食べ過ぎに注意して、食物繊維をしっかり摂取するようにしましょう。

一般的に便秘に効く食べ物として、食物繊維があります。
食物繊維には

  • 水に溶けにくい「不溶性食物繊維」
  • 水に溶けやすい「水溶性食物繊維」

の2種類があります。
この両方を、バランス良く食べることが大切です。

水溶性食物繊維は善玉菌を増やし、
不溶性食物繊維は腸の動きを活発にする
作用があります。

食物繊維の多い野菜、食べ物は以下のものになります。

不溶性食物繊維 水溶性食物繊維 不溶性・水溶性いずれも多く含むもの
  • ほうれん草
  • たけのこ
  • エリンギ
  • あずき
  • 大豆、きな粉
  • ココア
  • パイナップル
  • 干し柿
     など
  • わかめ
  • ひじき
  • らっきょう
  • 大麦
  • おから
  • こんにゃく
  • キャベツ
  • りんご

  •  など
  • ごぼう
  • にんじん
  • じゃがいも
  • キウイ
  • アボカド
  • 寒天
  • あおのり
  • 切り干し大根
  • なめこ
  • プルーン
  • 納豆
     など

また、オリーブオイルやごま油、チーズ、ナッツ類などで脂質を適度に摂ることで便秘の解消が期待できます。

便秘に効く飲み物・飲まないほうがいいもの

便秘の際に良い飲み物・悪い飲み物の一覧を以下にお示しします。

便秘にいい飲みもの 飲まないほうがいいもの
  • 水(白湯)
  • ほうじ茶
  • 麦茶
  • 炭酸水
  • 牛乳
  • 青汁
  • ルイボスティー
  • ローズヒップティー
  • 野菜ジュース
  • フルーツジュース など
カフェイン・タンニンを 多く含むもの
  • コーヒー
  • 紅茶
  • 緑茶
  • ワイン  など

腸内環境(腸内フローラ)の改善

プロバイオティクスの有効性

便秘には腸内細菌が関与しており、
腸内環境(腸内フローラ)を改善して、
プロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌、酪酸菌)を取り入れる
ことで、便通が良くなるといわれています。

腸内フローラの改善に良い野菜、果物、食べものの一覧を以下にお示しします。

ビフィズス菌を多く含む食品 発酵食品 オリゴ糖を多く含む食品
  • ヨーグルト
  • 乳酸菌飲料
  • 納豆
  • バナナ
  • ごぼう
  • 玉ねぎ
  • にんにく
  • アスパラガス
  • ライ麦
     など
  • 味噌
  • 醤油
  • 塩こうじ
  • 酒粕
  • かつお節
  • 納豆
  • キムチ

  •  など
  • 玉ねぎ
  • サトウキビ
  • キャベツ
  • ごぼう
  • アスパラガス
  • じゃがいも
  • にんにく
  • とうもろこし
  • 大豆
  • ハチミツ
     など

運動、ストレッチについて

便秘に対しては有酸素運動が有効であり、体幹のストレッチを行うことも効果があります。
日々の生活のなかで、無理なく続けられるウォーキングや自転車、ジョギングなどを行うことが効果的です。
また、運動が毎日できない場合でも、寝る前にストレッチを日々続けることで、便秘の解消に効果があるとされています。

まとめ

切れ痔は、日頃のストレスや食生活の乱れから便秘が生じることで起きやすくなります。
約10人に1人が切れ痔であると欧米では報告されており、日常で多くみられる病気の1つです。

近年では、中学生・高校生でも切れ痔と診断されるケースが多くあります。
痛みや出血が少ないからといって放置していると、肛門がなって手術が必要になることがあります。

市販薬で改善しない場合、肛門の痛みや出血がなかなか治らない場合には、まずは大腸・肛門の診療を行っている消化器内科へ受診するようにしましょう。
少しでも気になることがあれば、当クリニックへお気軽にご相談ください。

参考文献:

今日の消化器疾患治療指針 第3版 医学書院

胃と腸 第53巻 第7号 知っておきたい直腸肛門部病変 医学書院
胃と腸アトラスⅡ 下部消化管 第2版 医学書院
内視鏡診断のプロセスと疾患別内視鏡像-下部消化管 改訂第4版 日本メディカルセンター

胃と腸 第54巻 第5号 消化管疾患の分類 2019 医学書院
日本大腸肛門病学会 肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱診療ガイドライン 2020年版 改訂第2版
https://www.coloproctology.gr.jp/uploads/files/journal/koumonshikkan_guideline2020.pdf
健栄製薬 便秘に効くといわれている食べ物を紹介!食生活を改善しよう
https://www.kenei-pharm.com/ebenpi/column/column_50/

院長 鈴木 謙一(Kenichi Suzuki)

この記事の執筆者

院長 鈴木 謙一

略歴・役職

  • 埼玉医科大学医学部 卒業
  • 昭和大学横浜市北部病院消化器センター 助教
  • 山梨赤十字病院 消化器内科 医長
  • 磯子中央病院 内科(消化器内科) 医長
  • 2024年 横浜ベイクォーター内科・消化器内視鏡クリニック 横浜駅院 開業

所属学会・資格

  • 日本消化器病学会認定 消化器病専門医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
  • 日本消化管学会認定 胃腸科専門医
  • 日本内科学会認定 認定内科医
  • 神奈川県横浜市指定 難病指定医
  • 日本ヘリコバクター学会認定 H.pylori(ピロリ菌)感染症認定医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 上部消化管内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 大腸内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本抗加齢(アンチエイジング)学会 会員
  • American Society for Gastrointestinal Endoscopy member
  • United European Gastroenrerology member