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アニサキス

アニサキスとは

アニサキスとは、サバ・アジ・イカなどの海産魚介類の内蔵に寄生する寄生虫のことです。
新鮮な魚を生や生に近い状態で食べて、アニサキスが胃や腸の壁に刺さることで、痛みが生じます。

胃のアニサキスは、胃カメラで直接、虫体を摘出しない限り、波のある痛みが数日間持続します。
アニサキスは、長さ2~3cm、幅は0.5~1mmくらいで、「白色の少し太い糸くず」のように見えます。
また、酸に抵抗があり、胃酸の多い胃の中でも、数日間は死滅することなく生存できます。
胃痛だけでも激痛ですが、ひどくなると腸閉塞(イレウス)などの合併症を引き起こすこともあります。
疑わしい場合は、早めに消化器内科へ受診し、胃カメラを受けましょう。

アニサキス症に関して、症状や加熱・冷凍の仕方などの細かい情報まで、消化器病専門医・内視鏡専門医・胃腸科専門医である院長が、分かりやすく・詳細に解説していきます。

アニサキスとは

アニサキス症は増加しています

アニサキスは、食中毒の三大原因の1つです。
その他の三大原因は、ノロウイルス、カンピロバクターになります。
ノロウイルスとカンピロバクターは、近年減少しています。一方で、アニサキスは2017年から急激に発生数が増加しています。

厚生労働省の資料によると、2022年のアニサキス食中毒の発生数は、566件と過去最多を更新しています(前年比+245件)。

アニサキス症は増加しています

届け出がないものを含めると、日本では、年間2000〜3000人の方が、アニサキス症になっていると推定されています。
このことから、アニサキス症は、2012年に食品衛生法で食中毒の病因物質に追加されました。

アニサキスの食中毒が増加している理由として、最近の輸送技術の発展が挙げられます。
生きたままの魚(活魚)の輸送がスムーズとなっため、以前よりも広いエリアで多発しているのが現状です。

今後も、アニサキスによる食中毒は増加していくことが予想されます。

アニサキス症の原因

魚介類の生食が原因となります。
具体的には、サバ、サンマ、アジ、イカ、タラ、サケ、カツオ、イワシ、キンメダイ、ニシン、ホッケ、マスなどの刺し身・寿司の摂取が原因になります。

日本では北海道を除き、さば類が最多です。次いで、サンマ・サケ・アジ・イワシ・イカが多い魚になります。
これ以外では関東・西日本では、いわし類、かつお類、東北から北海道では、さけ類、いか類、サンマなどが報告されています。

食酢の処理では死滅しないため、「シメサバ」を食べることでも発症することがあります。
また、上記の魚介類の不十分な冷凍や、不十分な加熱調理したものの摂取もアニサキス症の原因となります。
調理には、十分に注意しましょう。

アニサキス症のメカニズム

アニサキスが胃や腸の壁に刺さることで症状が引き起こされますが、病気のメカニズムは、「アニサキスに対するアレルギー反応」と考えられています。
そのため、過去にアニサキスに感染したヒトでは、再感染した時に強い即時型のアレルギーを起こして症状が強く出ます。
初めての感染の場合は、軽症で経過して慢性アニサキス症になると考えられています。

アレルギー反応であるため、2回目以降の感染では、加熱処理や冷凍で死んだ状態であるアニサキスを摂取することでも発症するので、要注意です。

アニサキス症の分類

アニサキスが刺さる場所によって、

  • 胃アニサキス症
  • 腸アニサキス症
  • 消化管外アニサキス症

の3つに分類されます。

アニサキスは胃液によって死滅するため、胃のなかでのアニサキスの生存期間は、長くても約4日間です。
しかし、アニサキス症が重症化すると、腸閉塞(イレウス)を引き起こすことがあります。
また症状の程度により、急性(劇症型)と慢性(緩和型)に分類されます。

アニサキス症の98%が、急性胃アニサキス症です。
過去にアニサキスに感染したことがあり再感染した場合には、急性(劇症型)となります。

アニサキス症の症状

魚介類の生食後、1時間から2週間で発症します。
また、自然治癒するまでには数日間かかります。
平均的に摂取した後3〜8時間で発症するものが多いとされています。

胃アニサキス症 摂食後4〜8時間で発症
腸アニサキス症 摂食後数時間〜数日で発症

アニサキス症のほとんどは急性アニサキス症です。
また、アニサキス中毒の場合、一般的な食中毒と異なり、下痢を認めないことが特徴です。
また、ノロウイルスやカンピロバクターと比べて、症状が出現するまでの時間が、比較的早いことも特徴になります。

以下に主な食中毒の発症までの時間の一覧をお示しします。

アニサキス症の症状

【急性胃アニサキス症の症状】

魚介類を生で食べて、1~10 時間後(おおむね4時間以内)に

急成胃アニサキスの症状
  • みぞおち・上腹部の激しい痛み
  • 吐き気・嘔吐 など
アレルギー症状
  • じんま疹
  • むくみ
  • 呼吸困難 など

を引き起こします。

絞り上げられるような痛みが周期的に来ることが特徴です。
痛みには波がありますが、アニサキス虫体を摘出しないかぎり、数日間、胃痛が持続します。
アニサキスを胃カメラで除去した瞬間に、胃痛が消失することが特徴です。

【急性腸アニサキス症の症状】

魚介類を生で食べて、数時間から数日後に以下の症状が生じます。

急成腸アニサキスの症状
  • 激しい下腹部痛
  • 吐き気・嘔吐 など
腹膜炎の症状
  • 発熱
  • 歩くと痛みが響く
  • 激痛が持続する
  • お腹が固くなる など
アレルギー症状
  • じんま疹
  • むくみ
  • 呼吸困難 など

アニサキス症の病気のメカニズムはアレルギーであるため、腹痛以外にアレルギー症状が出ることがあります。
具体的には、じんま疹、むくみ、気管支けいれん、アナフィラキシー(全身の発疹、呼吸困難、血圧低下、吐き気・嘔吐)などを示す場合があります。

慢性アニサキス症は、自覚症状がない場合が多いです。
胃や腸の壁に肉芽腫が発見されることで、診断が確定される例が多いことが特徴です。
また、まれに虫体が胃や腸を貫通して、胃の大網、腸間膜、腹壁皮下などに移行し、アニサキスの寄生部位に応じた症状が現れるの消化管外アニサキス症があります。

消化管外アニサキス症では、発熱や頻脈、歩くと痛みが響くといった腹膜炎の症状を認めます。

アニサキス症を疑うチェックポイント

こちらのアニサキス症を疑うチェックポイントに該当する項目がないか、ご確認ください。

アニサキス症を疑うチェックポイント

このような症状・エピソードを認める場合、なるべく早めに消化器内科を受診しましょう。

アニサキス症の検査・診断・治療

胃アニサキス症の診断は、原因となる食べ物を食べていないかを問診で確認し、以下の検査を行います。

  • 胃内視鏡検査(胃カメラ)
  • 腹部CT検査

胃カメラや腹部CTで診断がついた時点で、アニサキス症に対する治療(内視鏡治療・薬物療法)を行います。

  • 胃アニサキス症
  • 腸アニサキス症

の診断・治療についてそれぞれ説明します。

①急性胃アニサキス症

問診と症状から、急性胃アニサキス症を疑った場合は、緊急で胃カメラを行います。
胃カメラでアニサキスの虫体を確認し、鉗子(かんし)とよばれる処置具で、アニサキスをつまんで摘出します。
アニサキスが除去されると、「ピタッと痛みが消える」ことが特徴です。

アニサキスの除去後は、胃薬とアナフィラキシー予防のために抗アレルギー薬を数日間内服します。
また、アナフィラキシー症状を認める場合、緊急に医療処置を行う必要があります。
アナフィラキシーまで発展するケースは稀ですが、アニサキスの虫体を内視鏡で摘出しなければ、胃の激痛は数日間、持続します。

疑わしい場合、早急に消化器内科へ受診しましょう。
治療費は保険診療で行えます。
胃カメラでの検査・治療を含め約5500〜6500円で対応可能です。

胃アニサキス症の内視鏡画像

こちらは胃に刺さっているアニサキスの内視鏡画像です。

胃アニサキス症の内視鏡画像


アニサキスを鉗子で掴むところです。
アニサキスが刺入している胃の粘膜はむくんでいて、中心は少し出血しています。

アニサキスを鉗子で掴むところです。


アニサキス虫体をしっかりと鉗子で掴んで、除去します

アニサキス虫体をしっかりと鉗子で掴んで、除去します


アニサキスを胃の粘膜に残していないかを確認します

アニサキスを胃の粘膜に残していないかを確認します


鉗子でアニサキスを掴んだ瞬間、胃痛が消えます。
アニサキスは数匹刺さっていることがあるので、1匹除去した後もほかに刺さっていないか、しっかり確認します。

鉗子でアニサキスを掴んだ瞬間、胃痛が消えます。

実際の胃カメラ動画

実際に口から胃カメラを入れてどのように観察しているかを見ていきましょう。
当クリニックで行っている観察方法をご説明致します。
胃カメラは、アニサキスの診断・治療のために必須の検査です

急性腸アニサキス症:

急性腸アニサキス症は、問診や症状から疑い、腹部CT検査などでで診断します。
実際には診断が困難なことが多いです。
治療としては、痛み止めや吐き気止め、抗アレルギー薬にて経過をみていきます。
腸閉塞(イレウス)や腸に穴があく(腸穿孔)の場合は、入院の上、外科手術によるアニサキスの摘出も検討されます。

直腸アニサキス症の内視鏡画像

肛門のすぐ上の直腸にアニサキスが認められます。

直腸アニサキス症の内視鏡画像

 

近づいて観察すると、直腸の粘膜には刺さっていませんでした。

直腸アニサキス症の内視鏡画像

 

鉗子でしっかりとアニサキス虫体を把持して、肛門から除去しました。

直腸アニサキス症の内視鏡画像

胃カメラの予約(即日の胃カメラ検査が可能です)

当院では、「アニサキスが疑われる」緊急性のある方に対して、当日での胃カメラ検査を行っております。
ご予約の際にはWEB予約の備考欄にご要件をご記載下さい。
予約が埋まってしまっている場合、お電話にて予約を賜ります。

アニサキス症の予防(加熱・冷凍方法)

アニサキス症の予防には

  • 加熱
  • 冷凍
  • 漁獲後の内蔵除去
  • 調理時の虫体目視

が有効です。

アニサキス症の
予防法
具体例
  • 加熱
60分で1分間、もしくは70℃以上で加熱
  • 冷凍
−20℃以下で24時間以上冷凍
  • 漁獲後の内蔵除去
ブラックライトが有効
  • 調理時に虫体を目視
ブラックライトが有効

アニサキス症の予防には、魚介類の加熱と冷凍が有効です。
アニサキスは60℃で1分、もしくは70℃以上で瞬時に死滅します。
また、冷凍処理に魚を-20℃以下で24時間以上冷凍することが有効です。
このように加熱・冷凍した魚介類は食べても大丈夫です。
一方で、アニサキスは酸に抵抗性があり、シメサバのように一般的な料理で使う程度の食酢での処理、塩漬け、醤油やわさびを付けても死ぬことはありません。
加熱調理するか、十分に冷凍してから調理するように心がけましょう。

魚の漁獲後は、速やかに内臓を除去することが有効です。
調理の際にはアニサキスは「白い糸くず」のように見えます。
ブラックライトを直接魚に当てることで、アニサキス虫体が光って見えるため、目視しやすくなります。
刺身や寿司など生で食べる場合には、十分に目視しながら調理するようにしましょう。

アニサキス症の予防(加熱・冷凍方法)


アニサキスは近年の輸送技術の進歩により、新鮮な魚介類が入手しやすくなったことで、発生数が増加しています。
また、プライベートで釣りをして獲った魚介類が原因で、発症するケースも多く見受けられます。
胃アニサキス症では、胃に刺さったアニサキスを直接除去しない限り、お腹の激痛が数日間持続します。

アニサキス虫体を除去することで、痛みがピタッとなくなり、日常生活が劇的に改善します。
疑わしい食事のエピソードや、症状の経過を認める場合、すみやかに消化器内科を受診しましょう。

参考文献:

胃と腸アトラスⅠ 上部消化管 第2版 医学書院
内視鏡診断のプロセスと疾患別内視鏡像-上部消化管 改定第4版 日本メディカルセンター
内閣府 食品安全委員会 ファクトシート 「アニサキス症」
http://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/factsheets_anisakidae.pdf
厚生労働省 アニサキスによる食中毒を予防しましょう
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000042953.html
国立感染症研究所 アニサキス症とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/314-anisakis-intro.html
日本消化器病学会 小腸アニサキス症
https://www.jsge.or.jp/files/uploads/119-5A.pdf
日本感染症学会 JAID/JCS 感染症治療ガイドライン 2015  ー腸管感染症ー
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/guideline_JAID-JSC_2015_intestinal-tract.pdf
厚生労働省 アニサキス食中毒に関するQ&A
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/05107.html
e-Stat 政府統計の総合窓口 食中毒統計調査
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450191&tstat=000001040259

院長 鈴木 謙一(Kenichi Suzuki)

この記事の執筆者

院長 鈴木 謙一

略歴・役職

  • 埼玉医科大学医学部 卒業
  • 昭和大学横浜市北部病院消化器センター 助教
  • 山梨赤十字病院 消化器内科 医長
  • 磯子中央病院 内科(消化器内科) 医長
  • 2024年 横浜ベイクォーター内科・消化器内視鏡クリニック 横浜駅院 開業

所属学会・資格

  • 日本消化器病学会認定 消化器病専門医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
  • 日本消化管学会認定 胃腸科専門医
  • 日本内科学会認定 認定内科医
  • 神奈川県横浜市指定 難病指定医
  • 日本ヘリコバクター学会認定 H.pylori(ピロリ菌)感染症認定医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 上部消化管内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 大腸内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本抗加齢(アンチエイジング)学会 会員
  • American Society for Gastrointestinal Endoscopy member
  • United European Gastroenrerology member