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機能性ディスペプシア

機能性ディスペプシアとは

機能性ディスペプシアとは、胃痛や胃もたれなどの症状があるにもかかわらず、検査を行っても異常がみつからない病気です。
原因は、日常生活の様々な要因が関与しており、なかでもストレスが大きく影響しています。
市販薬の胃薬や痛み止めで改善しないことが多く、治ったと思っても、慢性的に腹痛やもたれ感といった症状が続きます。

機能性ディスペプシアは、身体的・精神的ストレスや気分の落ち込み、自律神経の乱れ、うつ状態などとの関連が指摘されています。
検診を受診する方の約15%にみられる病気といわれており、慢性的な症状となることが特徴です。
また、過敏性腸症候群や逆流性食道炎を合併することが多いです。
日常生活に支障をきたす症状となることがありますので、お困りの方は、消化器内科へ受診しましょう。

機能性ディスペプシアに関して、治し方や症状のチェックポイントといった細かい情報まで、消化器病専門医・内視鏡専門医・胃腸科専門医である院長が、分かりやすく・詳細に解説していきます。

機能性ディスペプシアとは

機能性ディスペプシアの原因

機能性ディスペプシアの原因は、様々な要因が互いに複雑に影響しあって発症につながっていると考えられています。
特に重要とされているのは以下の4つです。

1. ストレス
2. 胃腸の動きの問題
3. 胃腸の知覚過敏
4. 胃酸の過分泌

日常生活でのストレスや、不規則な生活で自律神経が乱れることで、胃腸が知覚過敏となり、胃腸の動きが正常に機能しなくなることが考えられています。
また、ストレスがきっかけで胃酸が多量に分泌されるため、胸焼けを起こす原因となります。
胃腸が知覚過敏で敏感になることで、胃が動いた際に痛みが生じます。
また、脂肪に過敏な状態となるため、脂っこい食事をすることで症状が出やすくなります。

その他、以下の原因があると言われています。

5. ピロリ菌

ピロリ菌の除菌にて機能性ディスペプシアの症状が改善することがあります。

6. 感染性胃腸炎

感染性胃腸炎のあとに、機能性ディスペプシアが発症することがあります。

7. 生活習慣

お酒(アルコール)の多飲や喫煙、不眠などが原因となることがあります。
他にも、遺伝によって生まれつきなりやすい方や、胃の上部の形が拡張している瀑状胃(ばくじょうい)の方でも発症しやすくなります。

機能性ディスペプシアの症状

機能性ディスペプシアに特徴的な症状として、以下の4つがあります。

  • 食後のもたれ感・膨満感(ぼうまんかん)
  • 食後すぐの満腹感(早期飽満感)
  • みぞおちの痛み(胃痛
  • みぞおちが焼けるような感じ(灼熱感)

4つのうち、1つでも当てはまる症状があれば、機能性ディスペプシアである可能性が高いです。

それ以外にも、胃のむかつき、背中の痛み(背部痛)、食欲不振吐き気・嘔吐、げっぷ、息苦しいなど、人によって様々な症状が出現します。
これらの症状が治ったと思っていたら、また症状が出てくるといった形で、慢性的に症状が持続します。

体重減少や貧血を認める場合、機能性ディスペプシアではありません。別の病気が隠れている可能性が高いので、詳しい検査を行いましょう。

機能性ディスペプシアを疑うチェックポイント

こちらの機能性ディスペプシアを疑うチェックポイントに該当する項目がないか、ご確認ください。

このような症状を認める場合、消化器内科を受診しましょう。

機能性ディスペプシアの検査・診断

過敏性腸症候群の診断は、胃などの臓器に異常がないことを確認したうえで、上記の症状を認める場合に診断されます。

まずは自覚症状について、問診を行います。
具体的には、症状の出方や経過、食事との関係、ストレスの有無、体重減少の有無などを問診していきます。
患者さんの状態にあわせて以下の検査を行っていきます。

  • 胃内視鏡検査(胃カメラ検査)
  • 血液検査
  • ピロリ菌の検査
  • 腹部超音波検査(腹部エコー)
  • 心電図検査
  • 胸部レントゲン写真
  • 腹部CT検査

胃痛(みぞおちの痛み)を伴う場合、
機能性ディスペプシアのほかに、急性胃炎や慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍胃がん逆流性食道炎、胆嚢結石、膵臓の病気などさまざまな病気の可能性が考えられます。

検査を行うことで、胃がん、胃潰瘍、胆嚢結石、狭心症ではないことや、ピロリ菌に感染してはいないことなどを確認します。
これらの検査を行って異常がなかった場合に、機能性ディスペプシアと診断されます。

また、機能性ディスペプシアは、過敏性腸症候群を合併することが多いといわれています。
便秘や下痢で慢性的に悩まされている場合、大腸カメラも検討していきます。

診断のための質問ツール「改訂Fスケール」

改訂Fスケールとは、機能性ディスペプシアや逆流性食道炎を診断するための日本人向けの「質問ツール」です。
14項目の質問に、
[ない(0点)・まれに(1点)・時々(2点)・しばしば(3点)・いつも(4点)]
の5段階で記入していきます。
1 〜7の質問は、逆流性食道炎の症状であり、
8 〜 14の質問は、機能性ディスペプシアの症状となります。
合計点数が[8点]以上である場合、機能性ディスペプシアが疑われます。

Kusano M. et al. J Gastroenterol. Hepatol 2012; 27(7), 1187-91. より引用

Kusano M. et al. J Gastroenterol. Hepatol 2012; 27(7), 1187-91. より引用

ご自身でチェックしていただき、8点以上の場合は消化器内科へ受診しましょう。

機能性ディスペプシアの診断基準

以下の条件を満たす場合、機能性ディスペプシアと診断されます。

  • 食後のもたれ感・膨満感(ぼうまんかん)
  • 食後すぐの満腹感(早期飽満感)
  • みぞおちの痛み(胃痛)
  • みぞおちが焼けるような感じ(灼熱感)

これらの症状が半年前から認められ、
うち3ヶ月間は週に1回以上、症状が出ている場合、
機能性ディスペプシアの診断基準を満たします。
ですが、実際の現場では、苦痛をなるべく早く緩和させるため、1ヶ月ほど症状がときおり認められていれば、機能性ディスペプシアを強く疑い、治療を開始します。

実際の胃カメラ動画

実際に口から胃カメラを入れてどのように観察しているかを見ていきましょう。
当クリニックで行っている観察方法をご説明致します。

胃カメラは、機能性ディスペプシアの診断に有用な検査です。

機能性ディスペプシアの治療・治し方

機能性ディスペプシアの治療は、食後の胃もたれや腹痛などの自覚症状の消失を目標に行います。
症状の改善には、不安やストレスを改善させ、症状に応じた薬物治療を行います。
具体的には、

  • 生活習慣の改善
  • 薬物療法

の両立が重要になります。
また、LG21 乳酸菌入りヨーグルトを長期で摂取することで、症状が緩和されたとの報告があり、近年注目されています。

①生活習慣の改善

生活習慣の改善は、自律神経を安定化させ、症状の緩和や再発予防に非常に有効です。
具体的な日常生活の改善方法として

  • 十分な睡眠時間を確保する
  • 毎日適度な運動を行う
  • ストレスを適度に発散していく
  • アルコールの飲み過ぎに注意する

などが挙げられます。

また、症状の解消には、食事内容や食習慣も重要になります。

おすすめの食べ物・食べない方がいいもの

下の表は、消化の良いもの・消化の悪いもの(食べるのを控えたほうがよいもの)の一覧になります。

消化の良いもの
(おすすめする⾷べもの)
消化の悪いもの
(⾷べないほうがいいもの)
  • ご飯、おかゆ、素うどん、⾷パン
  • スープ
  • 乳製品
    (⽜乳、⾖腐、チーズ)
  • 加熱した卵
  • ⽕の通った野菜
  • 脂⾝の少ない⾁類
  • 加熱した⽩⾝⿂、はんぺん
  • 煮た⼤根やニンジン
  • りんご、バナナ、桃
  • ヨーグルト
  • プリン、ゼリー
など
脂っぽい⾷品
  • ベーコン、ハム、バラ⾁
  • サバ、ブリ、鰻など
消化のわるいもの
  • イカ、タコ、⾙類
  • ひじき、海藻類、⾖類
  • ごぼう、キノコ、こんにゃく、さつまいも
  • ⽣野菜
  • 揚げ物、天ぷら
  • 果物(パイナップル、柿、梨など)

その他、刺激物(辛いもの)、甘いもの(お菓子・ケーキなど)、コーヒー、紅茶、抹茶、アルコール、タバコ(喫煙)は胃もたれの原因になったり、胃に負担をかけるため、症状が強いときには控えたほうがいいです。

LG21 乳酸菌入りヨーグルトの有効性

LG21 乳酸菌入りのヨーグルトを長期的に食べることで、機能性ディスペプシアの症状が緩和したと報告されています。
この研究では、LG21 乳酸菌入りのヨーグルトを4週間、8週間、12週間と、継続して食べる期間が伸びれば伸びるほど、症状の改善を認めています。
また、機能性ディスペプシアのなかでも、

  • 食後のもたれ感、膨満感
  • 食後すぐの満腹感(早期膨満感)

に対する効果が明らかに高いとされています。
該当する症状がある方は、毎日のヨーグルト摂取を試してみましょう。

主要4症状全ての除去率の経時変化

主要4症状全ての除去率の経時変化

出典:Digestion 2017;96:92-102

②薬物療法

機能性ディスペプシアの治療は、生活習慣の改善に加え、内服薬でつらい症状をコントロールします。

  • 酸分泌抑制薬
    (PPI、PCABなど)
  • 胃の動きを改善する薬
    (アコチアミドなど)
  • 漢方薬
  • 抗不安薬、抗うつ薬
  • ピロリ菌除菌治療
    (※ピロリ菌陽性の場合)

漢方薬、抗不安薬や抗うつ薬にも、症状を軽減する効果があるといわれます。
また、ピロリ菌に感染している場合にはピロリ菌の除菌治療を行います。
うつ病の症状が前面に出ている場合には、心療内科へご紹介させて頂きます。

機能性ディスペプシアは、症状が多種多様であり、複数の薬剤を用いて、治療方針を考える必要があります。
そのため、患者さんに1人1人に合った内服薬を組み合わせて治療していくことが重要になります。

治療薬の一覧

治療薬の一覧

漢方薬の一覧

漢⽅薬 改善させる症状
六君⼦湯 胃痛、⾷欲不振、吐き気・嘔吐
半夏瀉⼼湯 げっぷ、胸焼け、消化不良
茯苓飲合半夏厚朴湯 ストレスに伴う胃炎
⼤建中湯 お腹の張り(腹部膨満感)
柴苓湯 吐き気、⾷欲不振
⼗全⼤補湯 ⾷欲不振、だるさ

機能性ディスペプシアの対処法

機能性ディスペプシアは、気にしすぎることで症状が引き起こされたり、悪化します。
気にしない方法として、以下のようなことに取り組みましょう。

  • 考えそうになったら、目を閉じて数分間、瞑想する
  • 考えるヒマな時間が多くならないようにする
  • 気を遣う人との付き合いを減らす・やめる
  • 1人で悩みを抱え込まず、気の許せる人に相談する
  • ストレスを適度に発散させる
  • 睡眠時間を十分にとる

これらを実践することで、薬物治療との相乗効果が期待できます。

機能性ディスペプシアが治りにくい理由

機能性ディスペプシアは、日常生活のストレスが大きく関わっている病気です。
仕事や日常生活を劇的に変えることは難しく、ストレスを完全になくすことは困難です。
また、様々な原因が互いに複雑に影響しあっているため、なかなか治りにくい病気の1つであり、治療に難渋することが多いとされています。
治療期間は1年から数年単位と長くなるケースが多く、長い目で向き合っていく必要があります。
また、治療によって、一旦は完全に症状がなくなった場合でも、数ヵ月のあいだに5人に1人程度の割合で再発するといわれており、注意が必要です。

休職や療養について

機能性ディスペプシアで、胃痛や吐き気などが強くあり、職場や学校へ行けなくなることは少なくありません。
状態が落ち着くまで、ご自宅で安静にしていただくことが良い場合があります。
そういったお悩みに対して、当クリニックでは休職や療養のための診断書を作成を行っております。
当クリニックの公式LINEアカウントより、チャット相談なども実施しております。お気軽にご相談下さい。

まとめ

機能性ディスペプシアは、命の危険になることはありませんが、慢性的に日常生活に支障をきたし、未治療であれば症状が持続します。
また、治ったと思っても、症状が再発して繰り返されるという特徴があります。
検査で異常がなかったからといって軽視せず、症状がある場合は、専門科である当クリニックへお気軽にご相談ください。

参考文献

最新ガイドライン準拠 消化器疾患 診断・治療指針 中山書店
今日の消化器疾患治療指針 第3版 医学書院
日本消化器病学会 機能性消化管疾患診療ガイドライン 2021 機能性ディスペプシア(FD)改訂第2版 
https://www.jsge.or.jp/guideline/guideline/pdf/fd2021r_.pdf
日本消化器病学会ガイドライン 機能性ディスペプシア 患者さんとご家族のためのガイド
https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/fd.html
明治 乳酸菌研究最前線 乳酸菌OLL2716株試験結果(FD)
https://www.meiji.co.jp/yogurtlibrary/laboratory/report/oll2716/05/

院長 鈴木 謙一(Kenichi Suzuki)

この記事の執筆者

院長 鈴木 謙一

略歴・役職

  • 埼玉医科大学医学部 卒業
  • 昭和大学横浜市北部病院消化器センター 助教
  • 山梨赤十字病院 消化器内科 医長
  • 磯子中央病院 内科(消化器内科) 医長
  • 2024年 横浜ベイクォーター内科・消化器内視鏡クリニック 横浜駅院 開業

所属学会・資格

  • 日本消化器病学会認定 消化器病専門医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
  • 日本消化管学会認定 胃腸科専門医
  • 日本内科学会認定 認定内科医
  • 神奈川県横浜市指定 難病指定医
  • 日本ヘリコバクター学会認定 H.pylori(ピロリ菌)感染症認定医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 上部消化管内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 大腸内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本抗加齢(アンチエイジング)学会 会員
  • American Society for Gastrointestinal Endoscopy member
  • United European Gastroenrerology member