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大腸憩室

大腸憩室とは

大腸憩室とは、大腸のなかにできる「ポケットのような袋状に引き伸ばされた粘膜」です。
憩室のできる主な原因として、便秘、ストレス、加齢などがあります。

粘膜が引き伸ばされてできるため、憩室からは出血しやすいという特徴があります。
また、便などが憩室のなかに詰まって血流が悪くなることで、憩室炎を生じることがあります。

大腸憩室は、上行結腸(大腸の右側)にできやすく、約75%を占めます。
日本のデータ(平均年齢52歳)では、日本人の約25 %に大腸憩室があるといわれています
大腸のなかの圧力(腸管内圧)が上昇することが原因となり、憩室が形成されます。
加齢に伴い、S状結腸や下行結腸(大腸の左側)に大腸憩室ができやすくなるという特徴があります。

大腸憩室に関して、おすすめの食事や、気をつける食べ物などの細かい情報まで、消化器病専門医・内視鏡専門医・胃腸科専門医である院長が、分かりやすく・詳細に解説していきます。

大腸憩室の原因

大腸憩室の原因は、以下のものがあります。

  • 加齢(40歳以降の方)
  • 便秘
  • 野菜が少ない食生活
  • ストレス

便秘や食物繊維が不足することで、腸管内圧(大腸のなかの圧力)が上昇しやすくなり、憩室ができやすくなります。
また、「肥満」は憩室出血・憩室炎のリスクとなります。
一方、大腸憩室があっても、大腸がんのリスクになることはありません。

近年、高齢化や食の欧米化に伴い、S状結腸・下行結腸(大腸の左側)にできるケースが増えており、大腸憩室の患者数は増加傾向です。
ストレスは、大腸憩室の直接的な原因ではないですが、慢性的なストレスにより便秘気味となるため、大腸憩室ができやすくなります。

大腸憩室の症状・合併症

 

大腸憩室があっても、基本的には無症状です。
大腸憩室の合併症として、①憩室出血、②憩室炎があります。

憩室出血

大腸の憩室から出血することを憩室出血といいます。
憩室出血は、

  1. 痛みを伴わない出血である
  2. 自然止血しやすい

という特徴があります。

日本で憩室出血を起こす確率は、
憩室ができて1年目に0.2 %、5年以内に2 %、10年以内だと10 %と、憩室のある期間が長くなるほど、憩室出血が起こる確率が上がるといわれています。
また、肥満は大腸出血のリスクになります。

日本での憩室出血の患者数は増加しています。
これは高齢化に伴い、心臓の病気で使用するアスピリンや、筋肉や骨の痛み止めとして使用する痛み止め(NSAIDs)を内服する方が増えていることが理由として考えられます。

憩室出血の70〜90 %は自然に止血しますが、5 %の方では輸血が必要になるほどの出血をきたすことがあります。
憩室出血の場合、原則入院で治療を行います。
入院期間は、出血がすぐにコントロールできるようであれば1週間程度です。
一方で、出血が繰り返す場合には数週間入院が必要となる場合があります。

憩室出血の内視鏡画像

憩室の内部から出血を認め、憩室の周囲の粘膜にも血液が付着しています。
(憩室を見やすくするために、ある程度、水で洗い流しています。)

憩室炎

憩室炎とは、大腸憩室に便が詰まることで、血流が悪くなり憩室に炎症を起こす病気です。
憩室炎の頻度は、憩室出血の約3倍といわれています。
憩室炎を起こすと、腹痛や発熱などの症状をきたします。
炎症が強い場合、入院加療を行うケースがあります。
胆石が憩室にはまり込んで、憩室炎を起こすケースもあります。

憩室炎の内視鏡画像

憩室の内部に炎症があり、白苔が付着しています。
憩室のまわりの粘膜は赤く、ややむくんでいるのが確認できます。

また、大腸憩室のある方は、
食道裂孔ヘルニアや、胆嚢結石を合併していることが多いという特徴があります。

大腸憩室の検査・診断

大腸憩室を診断するためには、以下の検査を行います。

  • 大腸内視鏡検査(大腸カメラ)
  • 注腸レントゲン造影検査(バリウム検査)
  • 腹部エコー検査
  • 腹部CT検査
  • 血液検査

大腸憩室の診断には、大腸カメラが最も有用です。
大腸カメラでは、小さな憩室であっても確実に観察することが可能です。
また、憩室出血の際には、大腸カメラにて止血処置を行うことができます。

注腸レントゲン検査でも大腸憩室の診断確定ができます。
しかし注意が必要なのは、憩室炎が疑われる場合には、注腸レントゲン検査は行ってはいけない(禁忌)という点です。

憩室炎が疑われる場合、腹部エコー・腹部CT検査を行い、腸管の炎症の評価や治療効果の判定に使用します。
憩室出血で出血量が多い場合には、腹部ダイナミックCTを行うことで、出血点を特定できるケースがあります。

憩室炎や憩室出血が疑われる場合、血液検査を行い、炎症や貧血の度合いを評価します。
貧血を認める場合、ヘモグロビン(Hb)が7.0 g/ dL以下であれば輸血を検討します。

大腸憩室の内視鏡画像

大腸憩室の治療

大腸憩室は症状がなければ、特別な治療は必要ありません。
憩室出血がある場合、安静にした上で点滴を行い、状況に応じて輸血や止血処置を行います。
憩室炎に関しては、軽症であれば抗生物質の投与を行い、炎症が強い場合には入院の上、絶食・点滴を検討します。

輸血

憩室出血で、ヘモグロビン(Hb)が7.0 g/ dL以下であれば輸血を検討します。

内視鏡的止血術(大腸カメラ)

出血量が多い場合や出血が持続している場合には、緊急大腸カメラを行い、クリップによる止血処置(クリッピング)やエピネフリン局所注射などを行います。

憩室出血のクリッピング時の内視鏡画像

憩室出血に対し、クリップで憩室を塞ぎます。

カテーテル治療(動脈塞栓術)

大量の出血を認める場合や、大腸カメラを行っても出血を繰り返す状況が続く場合には、カテーテル治療(動脈塞栓術)を行う場合があります。

外科的治療(手術)

憩室炎で腸のなかが狭くなったり(狭窄)、膿み(膿瘍)を認めて全身状態が悪化している場合などには外科的手術を検討します。
また、憩室出血で大腸カメラやカテーテル治療で止血が困難な場合に、外科的切除を検討します。

憩室出血後の食事

憩室出血で入院し、退院した後も1、2週間は消化のよいものをメインに食べるようにしましょう。

憩室出血後の食事でおすすめの食べもの・食べないほうがいいものの一覧をお示しします。

消化の良いもの 気をつける食べ物
  • ご飯、おかゆ
  • 素うどん
  • 食パン
  • スープ
  • 乳製品(牛乳、豆腐、チーズ)
  • 加熱した卵
  • 火の通った野菜
  • 脂身の少ない肉類
  • 加熱した白身魚、はんぺん
  • 煮た大根やニンジン
  • りんご
  • バナナ
  • ヨーグルト
  • プリン
  • ゼリー など
  • 脂肪の多い食事
    炒飯、ラーメン、とんかつ、焼き肉、天ぷら、カレーライス など
  • 胡椒、唐辛子を多く使った料理
    唐揚げ、手羽先、チゲ鍋、四川料理 など
  • スイーツ
    チョコレート、ケーキ、洋菓子、ドーナツ、アイスクリーム など
  • 刺激のある飲み物
    コーヒ-、紅茶、炭酸水、炭酸飲料、アルコール など
  • 消化しにくいもの
    たこ、イカ、貝類、くらげ、ごぼう、たけのこ、れんこん、山菜、きのこ類、こんにゃく類、海藻、パイナップル、梨(なし)、ぶどう 豆類、サツマイモ  など

気をつける食べ物は、大腸に負担がかかります。
退院後は少しずつ食べていくようにしましょう。

大腸憩室の予防・対処法

憩室を予防するためには、日々の生活で便通をコントロールすることが重要です。
「臭いおならが出る場合には、便秘のサイン」である可能性があります。

食事は、野菜などの食物繊維を摂るようにして、適度な運動を行いましょう。
ストレスや生活の乱れが便秘を引き起こします。
ストレスを軽減し、規則正しい生活を心がけて、毎日1回、便が出るようにしましょう。

日常生活を改善しても便通が良くならない場合は、便を出しやすくする内服薬(下剤)を使用して、便通をコントロールしましょう。
運動は憩室を予防するだけでなく、憩室出血・憩室炎の原因となる肥満を予防する上でとても大切です。

食事の改善

一般的に便秘に効く食べ物として、食物繊維が知られています。
食物繊維には、

  • 水に溶けにくい「不溶性食物繊維」
  • 水に溶けやすい「水溶性食物繊維」

の2種類があり、この両方をバランス良く食べることが大切です。
水溶性食物繊維は善玉菌を増やし、不溶性食物繊維は腸の動きを活発にする作用があります。


食物繊維の多い野菜・食べ物の一覧を以下にお示しします。

不溶性食物繊維 水溶性食物繊維 不溶性・水溶性いずれも多く含むもの
  • ほうれん草
  • たけのこ
  • エリンギ
  • あずき
  • 大豆、きな粉
  • ココア
  • パイナップル
  • 干し柿
     など
  • わかめ
  • ひじき
  • らっきょう
  • 大麦
  • おから
  • こんにゃく
  • キャベツ
  • りんご

  •  など
  • ごぼう
  • にんじん
  • じゃがいも
  • キウイ
  • アボカド
  • 寒天
  • あおのり
  • 切り干し大根
  • なめこ
  • プルーン
  • 納豆
     など

また、オリーブオイルやごま油、チーズ、ナッツ類などで脂質を適度に摂ることで便秘の解消が期待できます。

便秘に効く飲み物・飲まないほうがいいもの

便秘の際に良い飲み物・悪い飲み物の一覧を以下にお示しします。

便秘にいい飲みもの 飲まないほうがいいもの
  • 水(白湯)
  • ほうじ茶
  • 麦茶
  • 炭酸水
  • 牛乳
  • 青汁
  • ルイボスティー
  • ローズヒップティー
  • 野菜ジュース
  • フルーツジュース など
カフェイン・タンニンを 多く含むもの
  • コーヒー
  • 紅茶
  • 緑茶
  • ワイン  など

腸内環境(腸内フローラ)の改善

プロバイオティクスの有効性

便秘には腸内細菌が関与しており、腸内環境(腸内フローラ)を改善することで、便通が良くなるといわれています。
具体的には、大腸のなかの善玉菌を増やして、悪玉菌を減らすことで、便通の改善が期待できます。
オリゴ糖には善玉菌の増殖を促す効果があります。
また、おならのにおいが臭くて気になる場合、悪玉菌が増えて、善玉菌が減少していることが原因と考えられます。

「プロバイオティクス」とは、
腸内フローラのバランスを改善することによって、健康に好影響を与える生きた微生物と定義されており、乳酸菌やビフィズス菌、酪酸菌のことを指します。
ヨーグルト食品、納豆・キムチなどの発酵食品には、善玉菌である乳酸菌(ビフィズス菌)や酪酸菌が多く含まれています。
これらのプロバイオティクスは、

  • 排便回数の改善
  • 腹痛・お腹の張りなどの改善
  • 便秘の解消に即効性がある

とされています。

腸内フローラの改善に良い野菜、果物、食べものの一覧を以下にお示しします。

ビフィズス菌を多く含む食品 発酵食品 オリゴ糖を多く含む食品
  • ヨーグルト
  • 乳酸菌飲料
  • 納豆
  • バナナ
  • ごぼう
  • 玉ねぎ
  • にんにく
  • アスパラガス
  • ライ麦
     など
  • 味噌
  • 醤油
  • 塩こうじ
  • 酒粕
  • かつお節
  • 納豆
  • キムチ

  •  など
  • 玉ねぎ
  • サトウキビ
  • キャベツ
  • ごぼう
  • アスパラガス
  • じゃがいも
  • にんにく
  • とうもろこし
  • 大豆
  • ハチミツ
     など

これら食物繊維やプロバイオティクスを多く含む食品を用いて、バランスの良い食事を心がけましょう。

運動、ストレッチについて

便秘に対しては有酸素運動が有効であり、体幹のストレッチを行うことも効果があります。
日々の生活のなかで、無理なく続けられるウォーキングや自転車、ジョギングなどを行うことが効果的です。
また、運動が毎日できない場合でも、寝る前にストレッチを日々続けることで便秘の解消に効果があるとされています。

憩室出血を起こした方へ

腰・肩の痛み止めとして使われる「NSAIDsの湿布や飲み薬」を止めることで、憩室出血の再発を予防する効果があるといわれています。
痛み止めの薬を漫然と使用するのは控えましょう。
憩室出血はいったん止血した後、
1年後までに20〜35 %、
2年後までに33〜42 %が再出血するといわれています。
下血や血便など、憩室出血が疑わしい場合には、早めに消化器内科へ受診するようにしましょう。

まとめ

大腸憩室は40歳以上の方でみられやすく、年齢とともに憩室の数も増えていきます。
基本的には無症状ですが、憩室出血や憩室炎といった合併症を起こすリスクがあるため、ご自身が憩室があるかどうかを知っておくことは大切です。
40歳を過ぎたら一度、大腸カメラ検査を行うようにしましょう。
大腸憩室・大腸カメラに関して、何か気になることがあれば、お気軽にご相談ください。

参考文献:

胃と腸アトラスⅡ 下部消化管 第2版 医学書院
内視鏡診断のプロセスと疾患別内視鏡像-下部消化管 改訂第4版 日本メディカルセンター

最新ガイドライン準拠 消化器疾患 診断・治療指針 中山書店
今日の消化器疾患治療指針 第3版 医学書院
日本消化管学会 大腸憩室症(憩室出血・憩室炎) ガイドライン
https://minds.jcqhc.or.jp/docs/gl_pdf/G0001033/4/diverticulosis_of_colon.pdf
健栄製薬 便秘に効くといわれている食べ物を紹介!食生活を改善しよう
https://www.kenei-pharm.com/ebenpi/column/column_50/

院長 鈴木 謙一(Kenichi Suzuki)

この記事の執筆者

院長 鈴木 謙一

略歴・役職

  • 埼玉医科大学医学部 卒業
  • 昭和大学横浜市北部病院消化器センター 助教
  • 山梨赤十字病院 消化器内科 医長
  • 磯子中央病院 内科(消化器内科) 医長
  • 2024年 横浜ベイクォーター内科・消化器内視鏡クリニック 横浜駅院 開業

所属学会・資格

  • 日本消化器病学会認定 消化器病専門医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
  • 日本消化管学会認定 胃腸科専門医
  • 日本内科学会認定 認定内科医
  • 神奈川県横浜市指定 難病指定医
  • 日本ヘリコバクター学会認定 H.pylori(ピロリ菌)感染症認定医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 上部消化管内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 大腸内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本抗加齢(アンチエイジング)学会 会員
  • American Society for Gastrointestinal Endoscopy member
  • United European Gastroenrerology member