便潜血検査とは
便潜⾎(せんけつ)検査とは、便のなかに⾎液があるかどうかを調べる検査です。
⾒た⽬でわからない微量な⾎液が、便に含まれているかを調べることができます。
便潜⾎検査を⾏うことで、⼤腸がんを発⾒することができるため、40歳から実施できる⼤腸がん検診で、「⼤腸がんのスクリーニング検査」として⾏われています。
「便潜⾎検査で陽性になったけど、症状がないから様⼦を⾒よう」と思われた経験はないでしょうか?
がんが⼤きくなった場合や、直腸がんがある場合、⽬で⾒て⾎便が分かることはありますが、直腸がん以外の⼤腸がんでは、⾃覚症状はなく、便に⽬では⾒えない少量の⾎液が混ざる程度です。
⼤腸がんは、40歳以上から発症のリスクが⾼まり、年齢を重ねるほど、がんになるリスクは⾼まっていきます。
便潜⾎検査で陽性(要精検)となった場合、なるべく早めに消化器内科へ受診しましょう。
便潜⾎検査に関して、⼤腸がんが⾒つかる確率や、原因となる病気などの細かい情報まで、消化器病専⾨医・内視鏡専⾨医・胃腸科専⾨医・ピロリ菌感染症認定医である院⻑が、分かりやすく・詳細に解説していきます。
便潜⾎検査の精度
医療で⾏われる検査に関しては、いずれも100%の精度・信頼性があるわけではありません。
便潜⾎陽性と診断された場合、どれくらいの確率で⼤腸がんがあるのかというと、検査の精度は実はそれほど⾼くありません。
実際に、便潜⾎陽性となった⽅から
- ⼤腸ポリープが⾒つかる確率が50%前後、
- ⼤腸がんが⾒つかる確率は5%前後
といわれています。
⼀⽅で、1・2年毎に定期的に便潜⾎検査を⾏っている⽅では、⼤腸がん死亡率が15〜33%と減少したと報告されています。
また、「便潜⾎陰性」であっても、⼤腸がんではないと⾔い切ることはできません。
⼤腸がんがあっても、がんから常に出⾎しているわけではないからです。
そのため、便潜⾎検査の2⽇法で1回だけ陽性の場合や、便潜⾎検査が陰性であっても、腹痛、体重減少などの症状がみられる場合には、⼤腸カメラを⾏うことが推奨されます。
便潜⾎検査が陽性だった場合
便潜⾎検査で陽性であった場合、便潜⾎検査による再検査は⾏いません。
⼆次検査(精密検査)として、⼤腸カメラ検査を⾏う必要があります。
⼤腸がんのほか、上記のようにさまざまな病気が隠れている可能性があるためです。
実際に⼤腸カメラで腸のなかの粘膜を観察しなければ、病気の診断・治療を⾏うことができません。
そのため、健診や⼈間ドックなどで便潜⾎陽性という結果が出た際には、「⼤腸カメラ」を⾏い、便潜⾎の原因となっている病気を発⾒することが重要になります。
便潜⾎検査が陰性でも⼤腸カメラを受けた⽅が良い⽅
こちらの便潜⾎検査が陰性でも、⼤腸カメラを受けたほうがよい⽅のチェックポイントに該当する項⽬がないか、ご確認ください。
上記に該当する項⽬がある⽅は、⼤腸がんになりやすい⽅です。
1年に1回、定期的な⼤腸内視鏡検査を受けましょう。
⼤腸がん検診について
便潜⾎検査は1年に1回、⼤腸がん検診として、40歳以上の⽅であれば各⾃治体で年に1回無料で検査が受けられます。
ですが、⼤腸がん検診の受診率が30〜40%程度と低率であり、精密検査が必要とされた⽅の医療機関への受診率は60%程度しかありません。
精密検査の受診率が増加しない理由の⼀つに、⼤腸内視鏡検査への不安が挙げれます。
⼤腸カメラのイメージで「痛そう」、「つらそう」、「苦しそう」といった印象を持たれる⽅が多いと思います。
また、実際に過去に検査をして、そのような経験をされた⽅も少なくないというのが実情です。
当院ではこれらの不安を少しでも解消するために、全例の⼤腸カメラにおいて、点滴での鎮静剤(静脈⿇酔)を使⽤した検査を⾏うことで、「苦痛のない⼤腸カメラの実現」を追求しています。
また、鎮静剤の種類や量を患者様の年齢や体重、持病などを踏まえて調整することで、なるべく早く⽬覚めてお仕事や⽇常⽣活へすぐに復帰できるように⼯夫しています。
便潜⾎検査で陽性となった⽅で、⼤腸カメラを迷われている⽅は、お気軽にご相談下さい。
実際の大腸カメラの動画
※当院では全例、AI(人工知能)搭載した大腸カメラで、検査を行っております。
便潜⾎陽性と関係のある病気
便潜⾎検査は、主に⼤腸がんを調べるための検査ですが、便潜⾎検査が陽性なら⼤腸がんということではありません。
⼤腸がん以外でも、以下のような病気で便潜⾎陽性となることがあります。
- ⼤腸がん
- ⼤腸ポリープ
- 潰瘍性⼤腸炎・クローン病
- 過敏性腸症候群
- いぼ痔(ぢ)・切れ痔
- その他
それぞれについて1つずつ解説します。
⼤腸がん
⽇本では近年、⼤腸がんが急増しており、⼤腸がんの死亡数は、がん全体のなかで⼥性で第1位、男性で第2位を占めています。
厚⽣労働省「⼈⼝動態統計」より引⽤
その⼀⽅で、早期の⼤腸がんで発⾒できれば、ほぼすべての⽅の命を救うことができます。
⼤腸がんは、腸内で便とこすれたときに出⾎を⽣じたり、進⾏すると常に少しずつ出⾎をおこすようになったりと、出⾎と密接に関わっています。
⼀⽅で、⼤腸がんでは、⾒た⽬でも⾎便と判断できなかったり、⿊っぽい便になるだけというケースが多いです。
⽇本では、便潜⾎検査を⾏うことで、⼤腸がんによる死亡率が約60〜80%低下したと報告されています。
⼤腸がんができてから、⾃覚症状のない期間は約7年間であると推定されています。
そのため、⾃覚症状のない早期に⼤腸がんを発⾒するには、便潜⾎検査が役⽴ちます。
⼤腸ポリープ
⼤腸ポリープとは、⼤腸の粘膜の表⾯から盛り上がっている球状の瘤(こぶ)のことです。
便潜⾎検査で、⼤腸ポリープのうち30%程度を発⾒することができます。
10歳〜30歳代の若い⽅でも、痛みを伴わず便潜⾎陽性となる⽅では、若年性ポリープなどの出⾎をきたすポリープがある可能性があります。
また、⼤腸ポリープは、胃のポリープに⽐べるとがん化する可能性が⾼いので、注意が必要です。
潰瘍性⼤腸炎・クローン病
腸に炎症をおこす病気である炎症性腸疾患である潰瘍性⼤腸炎とクローン病でも、⾎便が⽣じます。
いずれも国が特定疾患(いわゆる難病)に指定している病気です。
潰瘍性⼤腸炎は、⼤腸に炎症をおこす病気で、20〜30歳代の若い⽅に⽐較的多いですが、若年者から⾼齢者まで発症します。
衛⽣状態が整った先進諸国に多く、1990年以降、⽇本では急激に患者数が増え続けています。
腸だけでなく、⽬や関節などに症状が出たり、ポリープががん化したりすることもあるため、早期発⾒・早期治療を⾏うことが⼤切です。
クローン病は、潰瘍性⼤腸炎と似ていますが、⼝から肛⾨までのすべての消化管に炎症が起こる可能性があることが特徴です。
10〜20歳代の若者が発症することが多く、男⼥⽐は2対1と男性に多い病気であります。
クローン病では炎症が強く起こるため、⼩腸や⼤腸に潰瘍を⽣じます。
とくに⼩腸に炎症や症状が出やすいのが特徴で、下痢や腹痛、⾎便、栄養失調、体重減少などが⽣じます。
その他、⼝内炎や関節炎、⽪膚の症状など全⾝のあらゆる部位に症状がみられます。
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群は、⼤腸や⼩腸に腫瘍や炎症といった病気がないにもかかわらず、腹痛や腹部の張りなどの違和感、便通の異常が認められる病気です。
数か⽉以上にわたって腹痛のほか、便秘・下痢などの排便異常を起こします。
⽇本⼈のおよそ10%の⽅が罹患しているといわれる頻度の⾼い病気で、ストレスが⼤きな原因といわれています。
過敏性腸症候群は、ストレスの増加に伴い増加してきており、男性より⼥性の⽅が多い、思春期から壮年期(特に20〜40代)の⽅に多いという特徴があります。
便秘でいきんだ際や、⽔様下痢で腸に圧がかかった場合、肛⾨や直腸の粘膜が裂けて、出⾎(⾎便)を⽣じます。
いぼ痔(ぢ)・切れ痔
いぼ痔・切れ痔のいずれでも、出⾎がおこる可能性はあります。
いぼ痔(ぢ)とは、排便時のいきみなどで⽣じる直腸の静脈の瘤(こぶ)のことです。
いぼ痔は肛⾨の病気で最も多い病気であり、どの年齢層にも起こりますが、45歳〜65歳にピークがあるといわれています。
また、痔の多くは肛⾨の裏側にできるため、外⾒からはわかりにくいことがほとんどです。
いぼ痔が➀嵌頓痔核、➁⾎栓性外痔核となると、患部が腫れて、強い痛みを⽣じます。
切れ痔は20歳〜50歳代に多く、⼥性に多いことが特徴です。
便秘による硬い便が原因となり、肛⾨が裂けてしまうケースが多いとされています。
また、切れ痔だと思っていたけれども、実際には梅毒、HIV感染(エイズ)、肛⾨がんであったということもあります。
慢性的な切れ痔になることで、肛⾨が狭くなり便が出づらくなり、⼿術が必要になるケースがあります。
その他の原因
病気ではありませんが、検便で引っかかる原因として、以下のものがあります。
- ⽉経(⽣理)
- 直腸や肛⾨の粘膜が切れてしまう場合
⼥性の場合、⽣理(⽉経)中に便潜⾎検査をすることで、⽉経⾎が便に混じってしまい、検査でひっかかることがあります。
直腸や肛⾨の粘膜は柔らかいです。
そのため、切れ痔までいかなくとも、⼀時的にいきんだ際に、粘膜が切れてしまって、検査で陽性となることがあります。
しかし、⾎便が⼼配ないものかどうかは、実際に⼤腸カメラで検査してみないとわかりません。
⼤腸がんは35歳ころから増え始めることが知られています。
「⽣理で⾎が混じったのだろう」・「少し切れただけだろう」と思っていたのに、実際に⼤腸カメラを⾏って、⼤腸がんが⾒つかるというケースもみられます。
便潜⾎検査で引っかかってしまった場合には、⼀度、⼤腸カメラ検査を⾏うようにしましょう。
便潜⾎検査での⼤腸がん早期発⾒の重要性
⼤腸がんは「便潜⾎検査による早期発⾒」が⾮常に効果的です。
どの病気も早期発⾒が⼤切ですが、⼤腸がんは早期がんで発⾒できれば、内視鏡⼿術での根治が望めます。
また、進⾏がんであっても、早いうちに治療を開始できれば、良好な予後が期待できるがんの1つです。
以下に、⼤腸がん・直腸がんの各ステージ(Stage)における5年⽣存率(⼤腸がんと診断された患者さんが、5年後に何%⽣存しているか)をお⽰しします。
ステージIIまでに適切な治療を開始できれば、
5年⽣存率は80%以上です。
定期的に⼈間ドック・検診を受けて、⼤腸がんを未然に防ぎましょう。
大腸がんの5年生存率 | 直腸がん | 結腸がん |
---|---|---|
Stage 0 | 97.6% | 93.0% |
Stage Ⅰ | 90.6% | 92.3% |
Stage Ⅱ | 83.1% | 85.4% |
Stage Ⅲa | 73.0% | 84.0% |
Stage Ⅲb | 53.5% | 63.8% |
国⽴がん研究センターがん情報サービス
最新がん統計より引⽤
便潜⾎検査のよくある質問(FAQ)
便潜血検査に関して、よくあるお問い合わせを列挙しました。
ご参考にして頂き、何かご不明な点があれば、お気軽にお問い合わせ下さい。
便秘気味で毎日は便が出ない
2回目の便通までに2・3日間隔があいてもやむを得ませんが、その場合、すでに便を採取した容器は冷蔵で保存してください。
やむを得ず室温で保存する場合は、日の当たらない涼しい場所(25°C以下)に保管してください。
どうしても1本もしくは2本とも採ることができなかったら、どうしたらよいか?
採れた容器は健診当日提出してください。
採れなかった容器は、ご希望があれば期限を延長できる場合がありますので、受付時にご提出ください。
生理中ですが、便潜血検査はできますか?
月経血で検査が偽陽性となってしまうため、生理中は検査できません。
生理が終わった後、2~3日してから採取してください。
下痢気味で固形の便が取れない
液体の便でも問題ありません。
便をスティックでかき混ぜるようにして採取してください。
持病で痔がありますが、検査は受けられますか?
痔がある場合でも便潜血検査は可能です。
しかし、痔の出血と大腸病変からの出血の区別はつかないので、検査で精密検査が必要となった方は、痔からの出血と自己判断せずに、必ず精密検査を受けてください。
便潜血検査の前に食事や飲み薬で気をつけることはあるのか?
便潜血検査では、食べ物や内服薬の影響を受けることはありません。
普段どおりの生活をして頂き、常用薬は欠かさずに飲むようにして下さい。
精密検査は、大腸カメラじゃないといけないのか?
便潜血の再検査や注腸検査は、国の指針では精密検査として推奨されていません。
理由として、がんからの出血は持続的ではないため、再検査しても陰性になる可能性があるためです。
また、再検査をしても病気を特定・診断することはできません。
そのため、便潜血検査で陽性(要精密検査)となった場合、大腸カメラにて検査していきます。
まとめ
「⾃覚症状はないし、痔の影響だろう」、「便潜⾎検査のときは⽣理だったし、その影響だろう」などと解釈して、放置してしまう⽅が多くいらっしゃいます。
便潜⾎陽性の原因が⼤腸がんであった場合、いかに早期に発⾒し、治療できるかが⾮常に重要になります。
ご⾃⾝の健康やご家族のためにも、便潜⾎検査でひっかかり要精検となった場合、⼤腸カメラによる精密検査を必ず受けましょう。
当クリニックでは痛い・怖そうといった不安を少しでも解消するために、点滴での鎮静剤を使⽤して、「苦痛のない⼤腸カメラの実現」を追求しています。
⼤腸カメラのWEB予約は、初診の⽅でもご利⽤いただけます。
便潜⾎検査で陽性になってお悩みの⽅や、⼤腸カメラを迷われている⽅は、お気軽にご相談ください。
参考文献:
最新ガイドライン準拠 消化器疾患 診断・治療指針 中山書店
国立がん研究センター 有効性評価に基づく 大腸がん検診ガイドライン
http://canscreen.ncc.go.jp/guideline/colon_full080319.pdf
日本消化器がん検診学会 大腸がん検診マニュアル
https://www.jsgcs.or.jp/files/uploads/d_manualbook2021.pdf
⽇本⼤腸肛⾨病学会 ⼤腸がん検診
https://www.coloproctology.gr.jp/modules/citizen/index.php?content_id=9
⽇本消化器病学会 消化器のひろば No.10
https://www.jsge.or.jp/citizens/hiroba/backnumbers/hiroba10/hiroba_10_05
Shaukat A. "Long-term mortality after screening for colorectal cancer". N Engl J Med 2013
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24047060/