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お腹が張る(腹部膨満)

お腹が張る(腹部膨満)とは

腹部膨満(ふくぶぼうまん)とは、お腹の異常なふくらみや、お腹が盛り上がっている状態のことです。

原因の大半は、食べすぎ(肥満)や、ガス溜まり、便秘によるものです。
その他の原因として、過敏性腸症候群、更年期障害、食物繊維の食べすぎ、腹水、がん、腸閉塞などがあります。

皆さまも一度は、お腹が張った経験があると思います。
快便なのにお腹が張る場合には、女性の更年期障害や、不溶性食物繊維の食べ過ぎが原因の可能性があります。

近年、過敏性腸症候群による「慢性的なお腹の張り」の訴えが増えてきています。
お腹の張りが続くことで、息苦しさや腹痛が生じて、日常生活が制限されてしまうことがあります。
また、お腹に水が溜まっていたり(腹水)、がんや腸閉塞(イレウス)などの病気が隠れているケースもあります。
症状でお困りの方は、一度、消化器内科へ受診しましょう。

お腹が張る(腹部膨満)に関して、原因となる食べ物や解消法などの細かい情報まで、消化器病専門医・内視鏡専門医・胃腸科専門医である院長が、分かりやすく・詳細に解説していきます。

お腹が張る(腹部膨満)とは

腹部膨満の種類

腹部膨満の種類は、

  • お腹全体の張りか、
  • 部分的な盛り上がりなのか

で分類されます。

以下に、腹部膨満を起こす病気の一覧をお示しします。

お腹全体の張り

腹部膨満がお腹の全体的に認められる場合、以下の病気の可能性が考えられます。

腹部膨満の原因 ①ガス溜まり ②腹水
考えられる病気 ・腸閉塞(イレウス)
・急性胃炎
・感染性胃腸炎
・萎縮性胃炎
・心不全(右心不全)
・便秘
・呑気症
・ヒステリー
・不安神経症 
・更年期障害
・肝硬変
・心不全(右心不全)
・ネフローゼ症候群(腎臓の病気)
・がん(悪性腫瘍)の腹膜転移
・癌性腹膜炎
・細菌性腹膜炎

その他、③妊娠や、④肥満でもお腹全体の張りを認めます。

部分的な盛り上がり

部分的にお腹が張っている場合、お腹が盛り上がっている部位によって、以下の病気の可能性が考えられます。

部分的な盛り上がり

腹部膨満の症状

腹部膨満によって、以下の症状が引き起こされます。

  • 腹痛
  • 息苦しさ
  • 食欲不振

一般的に腹部膨満の際には、腹痛を伴います。
お腹を押すことで、痛みが強くなることもがあります。
腹部膨満が続くことで、息苦しさを伴うこともあります。
お腹が張ってくることで、胃が圧迫されて、食欲が低下することもあります。

腹部膨満に伴う症状

腹部膨満に伴う症状の有無が、原因となっている病気を診断していくうえで、非常に重要になります。

お腹を押して痛い場合、胃や腸に炎症が起きている可能性があります。
また、お腹の張り(便秘)や下痢を交互に繰り返す場合、過敏性腸症候群の可能性があります。

腹部膨満に伴う主な症状の一覧を以下にお示しします。
伴う症状 考えられる病気
・吐き気・嘔吐
・気持ち悪い
胃潰瘍・十二指腸潰瘍萎縮性胃炎感染性胃腸炎、腸閉塞(イレウス)、急性胆嚢炎、胃がん、すい臓がん、妊娠 など
・体重増加
(腹水に伴う)
肝硬変、心不全、ネフローゼ症候群、腹膜炎 など
・体重減少 胃がん、大腸がん、すい臓がん、肝細胞がん、腎細胞がん、卵巣がん など
・背中の痛み 腹部大動脈瘤、急性膵炎、慢性膵炎、胃潰瘍 など
・黄疸 急性肝炎、肝硬変、急性膵炎、肝細胞がん、すい臓がん など
・発熱 急性胆嚢炎、急性肝炎、急性膵炎、急性虫垂炎 など

腹部膨満で緊急性が高い状態とは?

腹部膨満に伴い、以下のチェックポイントに該当する症状がある場合、緊急を要する状態である可能性があります。

このような症状を認める場合、すぐに医療機関へ受診しましょう。

腹部膨満の主な原因

腹部膨満のおもな原因として以下の6つが挙げられます。

  1. ガス溜まり
  2. 腹水
  3. 便秘
  4. 妊娠
  5. 肥満
  6. がん(悪性腫瘍)

1つずつ順に説明していきます。

ガス溜まり

腸の中にガス(おなら)が溜まることで、お腹が張ってきます。
おならがしょっちゅう出る場合は、過敏性腸症候群の可能性が考えられます。

それ以外にも、更年期障害や、不安神経症などの精神的な問題で生じている可能性があります。
また、呑気症(のんきしょう)といって、空気を無意識のうちに大量に飲み込んでしまう方でも、腹部膨満の訴えが強くなります。

常用薬で飲んでいる薬が原因となったり、病気では、腸閉塞(イレウス)、腸炎などでもガス溜まりが生じます。

ガスだまりの原因となる食べ物

ガスだまりの原因として、不溶性食物繊維の食べ過ぎがあります。

具体的には、
ひよこ豆、レンズ豆などの豆類や、
サツマイモ、じゃがいもなどのイモ類、
ごぼう、ブロッコリーなどの野菜、
きのこ類を多量に摂取することで起こります。
また最近では、動物性食品を全く食べない「ヴィーガン」の方や「ベジタリアン」の方が増えてきており、不溶性食物繊維の食べすぎで、お腹の張りを訴える方が多くいらっしゃいます。
バランス良く食べるように意識しましょう。

腹水

お腹のスペースのなかに水が貯まっている状態のことです。
健康な方でも、腹水は少量認められることはありますが、お腹の張りを自覚するような、多量の腹水の場合、病気が隠れている可能性が高いです。
腹水を引き起こす原因として、最も多いのが肝硬変です。
各種がんや心不全、腎臓の病気であるネフローゼ症候群などでも生じます。
その他、細菌や結核に感染し、腹膜炎を起こすことで腹水が生じます。
腹水によって腹部膨満をきたしている場合、全身の検査が必要になります。

便秘

腸のなかに固い便が長時間とどまることで、お腹の張りの症状が出てきます。
便秘は女性に多く、加齢により頻度が増えます。
急に生じる場合、日常でのストレスや環境変化が原因であることが多いです。
慢性の便秘の場合、糖尿病や甲状腺機能低下症などのホルモン異常を認めるケースがあります。
また、うつ病や神経性食欲不振症などの精神的なもの、抗うつ薬、抗精神薬などの内服によって慢性的な便秘が引き起こされます。

妊娠

妊娠の初期では胃腸の動きが弱くなるため、お腹の張りを自覚することが多いです。
また、妊娠すること自体が便秘を伴いやすくなるため、腹部膨満が起こりやすくなります。
その他、においが普段よりも気になるようになったり、微熱、眠気、頻尿、腰が重い感じを認める場合、妊娠の初期である可能性があります。
生理前に、お腹の張りを自覚することもあります。

肥満

体重が増加して、BMIが25以上である場合、医学的に肥満症と診断されます。
多くは食べすぎや飲み過ぎによるものです。
しかし、なかには太りやすくさせてしまう病気・状態が隠れている可能性があります。
具体的には、甲状腺機能低下症や副腎皮質ホルモンが過剰産生されるクッシング症候群などのホルモン異常や、脳の視床下部という部分の腫瘍(視床下部腫瘍)、糖尿病の薬や抗精神薬の内服などがあります。

がん(悪性腫瘍)

胃がん大腸がん、膵がん、腎臓がん、卵巣がん、子宮体がん、乳がんなどが原因で、腸の動きが悪くなり、お腹の張りが生じます。
また、これらのがんによって、腹水が生じるために腹部膨満が助長されます。

その他、血液のがんである慢性骨髄性白血病骨髄線維症などで脾臓が大きくなること(脾腫)で、腹部膨満を起こします。

胃がんの内視鏡画像
胃がんの内視鏡画像

大腸がんの内視鏡画像
大腸がんの内視鏡画像

腹部膨満の検査・診断

腹部膨満の原因となっている病気を診断するために、以下の検査を患者様の状態に合わせて行います。

  • 血液検査
  • 尿検査
  • 心電図検査
  • 胸部レントゲン検査
  • 腹部レントゲン検査
  • 胃内視鏡検査(胃カメラ)
  • 大腸内視鏡検査(大腸カメラ)
  • 超音波検査(エコー)
  • CT検査
  • MRI検査

まずは問診を行い、症状を起こしている可能性のある臓器を特定します。
女性の場合には最終月経の確認も行います。

血液検査で、炎症の度合いや肝機能、腎機能などを評価します。
心不全が疑われる場合、心電図・胸部レントゲンを行い、腸閉塞を疑う場合に腹部レントゲン検査を行います。

胃潰瘍や胃がんの検索に胃カメラを、腸炎や大腸がんの検索に大腸カメラを検討します。

※実際の胃カメラ動画

実際に口から胃カメラを入れてどのように観察しているかを見ていきましょう。
当クリニックで行っている観察方法をご説明致します。

胃カメラは、お腹の張りの原因を調べるための有用な検査です。

急性胆嚢炎、急性膵炎、すい臓がんの診断には腹部エコーが有効です。
その他、全身検索や精査のために、CTやMRIを行います。
検査にて異常がないにも関わらず、腹部の張り(腹部膨満)が続いている場合には、機能性ディスペプシア過敏性腸症候群、不安神経症、更年期障害などが考えられます。

腹部膨満の治療

検査によって病気が認められた場合は、その病気に対する治療を行っていきます。

ガスだまりや便秘が原因で、お腹の張りをきたしている場合、胃や腸の動きを良くする薬・漢方薬を内服することで、症状の改善・解消が期待できます。

胃や腸の動きを良くする薬は、ガス抜きの効果が強く、即効性がありますが、市販されているものはありません。
症状が続いている場合には、一度、消化器内科を受診しましょう。

胃や腸の動きを良くする薬の一覧を以下にお示しします。

胃や腸の動きを良くする薬の一覧

薬の分類 一般名
5-HT4受容体刺激薬 モサプリド
アセチルコリン
エステラーゼ阻害薬
アコチアミド
自律神経剤
(4級アンモニウム塩)
ベタネコール


以下に、お腹の張り(腹部膨満)で使用する漢方薬の一覧をお示しします。

漢⽅薬 改善させる症状
大建中湯 お腹の張り、腹痛
麻子仁丸 高齢者の便秘
順腸湯 高齢者の便秘
大黄甘草湯 便秘
桃核承気湯 イライラを伴う便秘
防風通聖散 イライラを伴う便秘
桂枝加芍薬大黄湯 お腹の張り、便秘
大紫胡湯 上腹部痛を伴う便秘

腹部膨満の解消法

一般的なお腹の張り(腹部膨満)への対処法・解消法として、以下の2点が挙げられます。

日常生活で気をつけること

歩いたり、運動することで腸の動きが良くなります。
1日15分ウォーキングする、1日腹筋やスクワットを30回する、など日々の生活のなかで、無理なく続けられる運動習慣を作ることが重要です。

また、ストレスが溜まることで、腸の動きが悪くなるため、適度なストレス発散や、十分な睡眠時間の確保など規則正しい生活リズムを心がけましょう。

食事に関して

「不溶性食物繊維」を食べ過ぎることで、ガス溜まりが起こります。
ひよこ豆やレンズ豆などの豆類や、サツマイモやじゃがいもなどのイモ類、ごぼうやブロッコリーなどの野菜、きのこ類の食べ過ぎは控えてましょう。
また、バランス良い食事を心がけましょう。

腹部膨満の際に、おすすめする食べ物・気をつけたほうがよい食べ物の一覧を以下にお示しします。

消化の良いもの 気をつける食べ物
  • ご飯、おかゆ
  • 素うどん
  • 食パン
  • スープ
  • 乳製品(牛乳、豆腐、チーズ)
  • 加熱した卵
  • 火の通った野菜
  • 柔らかく煮た大根やニンジン
  • 脂身の少ない肉類
  • 加熱した白身魚、はんぺん
  • りんご、バナナ、桃
  • ヨーグルト
  • プリン、ゼリー
など
  • 不溶性食物繊維
    豆類(ひよこ豆、レンズ豆)、サツマイモ、じゃがいも、ごぼう、ブロッコリー、きのこ類
  •  
  • 消化しにくいもの
    たこ、イカ、貝類、くらげ、ごぼう、たけのこ、れんこん、山菜、きのこ類、こんにゃく類、海藻、パイナップル、梨(なし)、ぶどう  など
  • 脂肪の多い食事
    炒飯、ラーメン、とんかつ、焼き肉、天ぷら、カレーライス など
  • 胡椒、唐辛子を多く使った料理
    唐揚げ、手羽先、チゲ鍋、四川料理 など
  • スイーツ
    チョコレート、ケーキ、洋菓子、ドーナツ、アイスクリーム など
  • 刺激のある飲み物
    コーヒ-、紅茶、炭酸水、炭酸飲料、アルコール など

まとめ

お腹の張りが続くことで、仕事や家事に集中できなかったり、日常生活が制限されてしまうことがあります。
近年、ストレス社会の影響から、機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群の方が増加しており、女性だけでなく、男性でもお腹の張りで悩まされている方が多くいらっしゃいます。

お腹の張りが少しでも気になった際は、当院へお気軽にご相談ください。

参考文献:

最新ガイドライン準拠 消化器疾患 診断・治療指針 中山書店
今日の治療指針 2023年版 医学書院
日本消化器病学会 消化器のひろば No.9 腹部膨満
https://www.jsge.or.jp/citizens/hiroba/backnumbers/hiroba09/hiroba_09_03
日本内科学会誌 慢性便秘症診療ガイドライン 2017
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/2/109_254/_pdf/-char/ja
日本助産学会誌 現代の妊婦のマイナートラブルの種類、発症率及び発症頻度に関する実態調査
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjam/23/1/23_1_48/_pdf

院長 鈴木 謙一(Kenichi Suzuki)

この記事の執筆者

院長 鈴木 謙一

略歴・役職

  • 埼玉医科大学医学部 卒業
  • 昭和大学横浜市北部病院消化器センター 助教
  • 山梨赤十字病院 消化器内科 医長
  • 磯子中央病院 内科(消化器内科) 医長
  • 2024年 横浜ベイクォーター内科・消化器内視鏡クリニック 横浜駅院 開業

所属学会・資格

  • 日本消化器病学会認定 消化器病専門医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医
  • 日本消化管学会認定 胃腸科専門医
  • 日本内科学会認定 認定内科医
  • 神奈川県横浜市指定 難病指定医
  • 日本ヘリコバクター学会認定 H.pylori(ピロリ菌)感染症認定医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 上部消化管内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本消化器内視鏡学会認定 大腸内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本抗加齢(アンチエイジング)学会 会員
  • American Society for Gastrointestinal Endoscopy member
  • United European Gastroenrerology member